【薬剤師解説】 はじめに- 「マンジャロ」って、痩せるらしい?
こんにちは。NPO法人フルーツフルライフの薬剤師 坂本です。
今回は、世間を騒がせている”マンジャロ”を取り上げます。
- 「打つだけで食欲が抑えられて、スルッとやせる」
- 「マンジャロという薬が、ダイエットにすごく効くらしい」
SNSの広告、テレビ、友人との会話 ― さまざまな場面で話題にのぼるこのお薬。
そして、いよいよ厚労省が注意喚起。警察が取り締まりを強化するというニュースさえ流れてきました。
そこで緊急に、そして是非、元製薬会社の副作用を専門に研究していた薬剤師として、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。
それは、マンジャロは「やせ薬」として気軽に使ってよいものなのか?、ということです。
そもそもマンジャロは医師の管理のもとで使われるべき、れっきとした医療用のお薬です。
年齢や立場にかかわらず、ネットの広告や口コミにひかれて自己判断で手を出してしまうと、思わぬ健康被害につながることがあります。だからこそ、使う前に「正しい知識」を持っておくことが大切です。
このブログでは、できるだけやさしい言葉で、ていねいにお伝えします。
・マンジャロとは、そもそもどんなお薬なのか
・なぜ血糖が下がり、体重も減るのか
・どんな副作用があり、何に気をつけるべきか
・「正しい使い方(適法)」と「危険な使い方(違法)」は何が違うのか
・最近広がっている「オンライン診療」は、どう付き合えばいいのか
少し長くなりますが、ご自身のためにも、大切な人のためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。
第1章 マンジャロって、そもそも何のお薬?
マンジャロ(Mounjaro)は、海外の製薬会社が開発し、日本では2023年から使われるようになった、比較的新しいお薬です。一般名(薬の正式な成分名)を「チルゼパチド」といいます。
マンジャロは、もともと「2型糖尿病」を治療するためのお薬です。
日本では原則として、2型糖尿病(先天的なものではなく、生活習慣に起因している糖尿病)の患者さんに対し、医師が必要と判断した場合に処方されます。週に1回、おなかや太ももなどにご自身で注射するタイプ(皮下注射)が中心です。専用のペン型の器具を使い、針もごく細く、痛みは少ないよう工夫されています。
「やせ薬」というイメージが先行している理由
マンジャロが大きな話題になっているのは、血糖値を下げる効果に加えて、「体重が減る」という働きがはっきり見られたからです。海外では肥満症の治療にも使われるようになり、日本でも本来の目的より先に「ダイエットに効く薬」というイメージが広まってしまいました。
しかし、くり返しになりますが、これは本来は病気を治療するためのお薬です。「少し体重を落としたいから」という軽い気持ちで使うものではない、ということを、まず心にとめておいてください。
第2章 なぜ血糖が下がり、体重も減るのか
ここでは、マンジャロが体の中でどんな働きをしているのかを、なるべくやさしくご説明します。
「インクレチン」というホルモンの仲間です
私たちが食事をすると、腸から「インクレチン」というホルモンが出ます。これは、血糖値が上がりすぎないように、すい臓にそっと声をかけてインスリンを出させる働きをしています。
マンジャロは、このインクレチンの仲間(GIPとGLP-1という2種類のホルモン)の働きを、まとめて助けてくれるお薬です。2種類に同時に働きかけるのは、これまでにない新しい仕組みです。
3つの働き
① 血糖が高いとき、インスリンを出すのを助ける → 血糖値を下げる
② 胃の動きをゆっくりにする → 満腹感が長続きする
③ 脳の「食欲」にブレーキをかける → 食べすぎを防ぐ
この②と③の働きによって、自然と食べる量が減り、結果として体重が減っていく、というわけです。
ただし大事なのは、「食欲が抑えられる」というのは、裏を返せば「食べられなくなる」ということでもあるという点です。これが、次にお話しする副作用や栄養不足につながることがあります。
第3章 【重要】ダイエット目的でマンジャロを使った場合の副作用
どんなにすぐれたお薬にも、効果と同時に「副作用」があります。マンジャロも例外ではありません。むしろ、効果が強い分、注意すべき点もしっかりあるお薬です。
特に痩身・ダイエット目的での使用は「適応外」です。その前提で、主な危険を5つ挙げます。
- 重い消化器症状と脱水 — 吐き気、嘔吐、下痢、便秘が高頻度で起こります。
特に自己判断で量を増やすと症状が強く出て、脱水から腎機能の悪化につながることがあります。
- 急性膵炎・胆のう疾患 — この薬では急性膵炎の報告があり、激しい腹痛・背部痛が出たら緊急受診が必要です。
急な体重減少は胆石の発生リスクも高めます。
- 低血糖 — 糖尿病でない人や、他の血糖降下薬・インスリンと併用した場合に低血糖を起こす危険があります。
無管理だと意識障害に至るケースもあります。
- 筋肉量・骨量の減少とリバウンド — 食欲が強く抑えられるため、脂肪だけでなく筋肉や骨も落ちやすく、栄養不足になりがちです。
やめると体重が戻る(リバウンド)こともよく知られています。。
とくに注意が必要な方
すい炎や胆のうの病気の既往がある方、妊娠中・授乳中の方
これらの方は、そもそも使うべきでない、あるいは特別な注意が必要な場合があります。自己判断は禁物です。
だからこそ、マンジャロは「医師の管理のもとで使う」ことが、何よりも大切なのです。
第4章 「違法」と「適法」― 入手のしかたで天と地ほど違います
ここまで読んでくださった方なら、もうおわかりかもしれません。マンジャロは、効果も副作用もしっかりあるお薬だからこそ、「どう手に入れ、どう使うか」がとても重要になります。
最近心配なのが、医師の診察を受けずに、インターネットの通販や「個人輸入」で手に入れてしまうケースが増えていることです。下の表で、正しい使い方と危険な使い方のちがいを整理してみました。
【表1】マンジャロ ― 適法な使い方と、違法・危険な使い方のちがい
とくに注意していただきたいのが、海外の通販サイトや個人輸入で買ったお薬には、偽物や成分が不確かなものが混ざっていることです。安く手に入るように見えても、その中身が本物である保証はどこにもありません。
さらに、自分のために処方されたお薬を、家族や友人に分けたり、売ったりすることは法律(薬機法)に違反します。「よかれと思って」のことが、思わぬトラブルにつながりかねません。
そして万一、こうした正規でないルートのお薬で重い副作用が起きても、国の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)は使えず、すべて自己責任になってしまいます。
第5章 オンライン診療と、どう付き合うか
最近は、スマートフォンやパソコンの画面ごしに医師の診察を受けられる「オンライン診療」が広まってきました。マンジャロのようなお薬も、オンライン診療で処方されることがあります。
オンライン診療そのものは、国のルールに沿って正しく行われれば、とても便利で前向きな仕組みです。一方で、使い方しだいでは注意も必要です。よい点と注意点を整理してみましょう。
【表2】オンライン診療のメリットとデメリット
安心して使うための、見きわめのポイント
オンライン診療を利用するなら、次のような点を確認すると安心です。
- 医師がきちんと問診し、あなたの病歴や飲んでいる薬を確認してくれるか
- 必要に応じて、血液検査や対面受診をすすめてくれるか
- 処方後も、体調や副作用を定期的にフォローしてくれる体制があるか
ほとんど診察もせず、希望すれば即座に「やせ薬」を送ってくるようなサービスは要注意です。便利さの裏で、あなたの安全がおろそかにされている可能性があります。
オンラインでも対面でも、大切なのは「あなたの体をきちんと診て、責任をもって管理してくれる医療者とつながっているか」という一点です。
おわりに ― 「楽をしてやせる」より、「安全に健康になる」を
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
マンジャロは、糖尿病の患者さんにとっては、たいへん心強いお薬です。医師の管理のもとで正しく使えば、血糖のコントロールを助け、毎日の暮らしを支えてくれます。
けれども、「打つだけでやせる魔法の薬」ではありません。そして、医師の診察を受けずに手に入れて、自己判断で使うことは、とても危険です。これは年齢や立場を問わず、すべての人に当てはまります。
もし「やせたい」「健康になりたい」という気持ちがあるのなら、まずは医療機関や薬剤師に、その思いを話してみてください。対面でもオンラインでも、あなたを誠実に診てくれる医療者となら、きっと、あなたに合った安全な道を一緒に考えてくれるはずです。
さらに、糖尿病の患者さんにとっては、マンジャロはとても良いお薬です。
それをダイエット目的で使用することにより、本当に必要としている患者さんにマンジャロが届きにくい状況が起きてしまう。
このことにも心を配ってください。
どうか、これからも笑顔で、あなたと大切な人の健やかな毎日が続きますように。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
この記事の参考にした情報
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)糖尿病情報センター「2型糖尿病の治療(お薬について)」
- マンジャロ(チルゼパチド)に関する医療関係者向け解説動画 ほか公開情報
- 日本イーライリリー 医薬品情報(添付文書)
- 厚生労働省「医薬品の個人輸入について」「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
- (公財)医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品副作用被害救済制度
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定のお薬の使用をすすめたり、個別の診断・治療の代わりになったりするものではありません。マンジャロは医師の処方が必要な医療用医薬品です。気になる症状や使用のご検討がある方は、必ず医療機関にご相談ください。
この記事を書いた人:NPO法人フルーツフルライフ 薬剤師 坂本
元1部上場製薬会社の研究員。幅広い世代のみなさまに、難しい医療・健康の話を、できるだけわかりやすくお届けすることを大切にしています。
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