「人の名前がどうしても思い出せない」「部屋に来たけれど、何を取りに来たのか忘れてしまった」。そんな「うっかり」が増えてくると、「もしかして認知症かしら……」と、お一人で不安を募らせてしまう方も多いですよね。
今日は、物忘れと上手に、そして前向きに付き合っていくためのヒントを、薬剤師の視点からゆっくりお話ししましょう。
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1. 知っておきたい「加齢」と「認知症」の違い
まずは、「単なる老化」なのか「病気のサイン」なのか、その違いを整理してみましょう。実は、記憶には**「覚える(入力)」「保持する(保存)」「思い出す(出力)」**という3つの段階があります。
加齢による物忘れは、主に**「思い出す(出力)」力が少し鈍った状態です。
頭の引き出しに大事にしまってはあるけれど、鍵がちょっと硬くなっているだけ。
だから、周りからヒントをもらえば「ああ、そうだった!」と鍵が開くのです。
一方、認知症は「覚える(入力)」**こと自体が難しくなるため、体験そのものが抜け落ちてしまいます。
わかりやすく表にまとめましたので、一緒に見てみましょう。
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比較項目 |
加齢による物忘れ(自然な老化) |
認知症(病気の疑い) |
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忘れる範囲 |
体験の一部(献立を忘れる) |
体験のすべて(食べたこと自体を忘れる) |
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自覚の有無 |
ある(「最近うっかりして」と不安になる) |
ないことが多い(忘れたことを否定する) |
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日常生活への影響 |
支障はない(工夫して自立できる) |
支障がある(道に迷う、家事が困難) |
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ヒントの効果 |
思い出せる |
思い出せない |
「朝ごはんに何を食べたか忘れる」のはうっかりさんですが、「食べたこと自体を忘れて『ごはんはまだ?』と聞いてしまう」場合は、少し注意が必要かもしれません。
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2. 「もしかして?」と感じたら。今の状態をチェックしましょう
今の状態を客観的に知ることは、決して怖いことではありません。「今の自分を確認する地図」だと思って、気楽に確認してみてくださいね。
- 人の名前が出てこないことがよくある
- 物の置き場所を忘れることがよくある
- 話の内容が理解しづらいことがある
- 日付や曜日の感覚が曖昧になっている
- 同じことを何度も聞いてしまう
- 料理や家事の段取りがわからなくなることがある
- 興味や関心が薄れ、外出や趣味をしなくなってきた
チェックがついたからといって、すぐに病気と決まるわけではありません。まずは「今の状態を知ること」が、これからの健やかな毎日のための大切な一歩になります。
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3. 今日からできる!脳を若々しく保つ「3つの生活習慣」
薬剤師として、特にお伝えしたいのが日々の習慣の力です。これらは「軽度認知障害(MCI)」の予防にも非常に効果的ですよ。
① 食事:いろいろな食品を楽しみましょう
実は、食品の多様性が高い(いろいろな食材を食べている)人は、そうでない人に比べて認知機能低下のリスクが44%も低いという頼もしいデータがあります。
- 脳に嬉しい食材: 青魚(DHA・EPA)、乳製品、豆類(レシチン)、緑茶(カテキン)、葉物野菜(葉酸)を積極的に摂りましょう。
- 工夫のコツ: 「いつもの一品に、旬の食材を足す」だけで十分です。献立を考えたり、買い物に行ったりすること自体が、脳にとって最高のトレーニングになります。
② 運動:10分からの「貯筋」が脳を救う
体を動かすと脳の血流が良くなります。
- 内容: 早歩きや、スクワットなどの筋肉に負荷をかける運動がおすすめ。
- 目安: 週3回以上の運動で、認知症リスクがおよそ半分になると言われています。「毎日10分、2〜3日に一度」からで大丈夫。無理せず、少しずつ始めましょう。
③ 質の良い睡眠と、人との交流
- 睡眠: 理想は6.5〜7.5時間です。特に深い眠りである「ノンレム睡眠」の間に、脳は疲労を回復させます。
- 交流: 家族以外の人との会話は、脳をフル回転させます。趣味や地域の集まりは、最高の活性剤です。
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4. 「軽度認知障害(MCI)」は、健康へ戻るための分岐点
「健常」と「認知症」の中間にある状態を「MCI(軽度認知障害)」と呼びます。ここは、人生の大切な「分かれ道」です。
何もせず放置すると、5年後には約40%の方が認知症へ進行すると言われています。
しかし、MCIの段階で適切な対策(食事や運動など)を行えば、5年後には約38.5%の方が、元の健康な状態に回復したという報告があるのです。「早めに気づけて良かった」と前向きに捉えていきましょう。
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5. 困った時の相談先:あなたは一人ではありません
不安が強いときは、専門家の力を借りるのが一番の近道です。
- 物忘れ外来・認知症専門医: 詳しい問診や画像検査で、状態を正確に診断してくれます。
- 地域包括支援センター: どなたでも無料で相談できる窓口です。保健師や社会福祉士、ケアマネジャーといった専門家が、暮らしの困りごとに寄り添ってくれます。
- 私たち薬剤師: 実は「お薬の影響」で頭がぼんやりすることもあります(ポリファーマシー)。複数の病院のお薬を整理することで、スッキリされる方もいらっしゃいますよ。
【受診の際の準備メモ】
- お薬手帳: 飲み合わせの確認に必須です。
- 症状のメモ: 「いつから」「どんな時に」「生活のどこで困っているか」を書き留めましょう。
- ご家族の同行: 普段の様子を客観的に伝えてもらうと、より正確な診断につながります。
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おわりに:笑顔で過ごす毎日のために
物忘れは、決して恥ずかしいことではありません。年を重ねる中で誰もが経験する「変化」のひとつです。その変化を否定せず、前向きに向き合っていくことで、これからの毎日もきっと笑顔で過ごせます。
「病院に行くほどではないけれど……」という時こそ、街の科学者、薬剤師に相談も良いですね。
あなたの毎日が、これからも健やかで、笑顔あふれるものでありますように。
