こんにちは。薬剤師として、地域住民の皆さまの健康をサポートしております。最近、海外から持ち込まれた事例をきっかけに、日本国内で大人の「はしか(麻疹)」の感染報告が相次いでいます。「子供の病気」というイメージが強いはしかですが、大人がかかると重症化しやすく、決して侮れない感染症です。この記事では、薬剤師の視点から、高齢者世代の方々とそのご家族に向けて、大人がかかるはしかのリスクと、ご自身と大切な家族を守るための具体的な予防法を、わかりやすく解説します。
1. 「はしか(麻疹)」は、ただの子供の病気ではありません
はしかは、子供だけでなく大人にとっても非常に危険な感染症です。特に大人が感染すると、症状が重くなる傾向があります。
1-1. インフルエンザの10倍ともいわれる驚異の感染力
はしかウイルスの特徴は、その非常に強い感染力にあります。
・極めて強い感染力:
インフルエンザの10倍ともいわれ、免疫がない人がウイルスに接触すると、ほぼ100%感染するとされています。
・多彩な感染経路:
ウイルスは非常に小さく、空気中に漂うウイルスを吸い込む「空気感染」のほか、「飛沫感染」「接触感染」によっても広がります。
・マスクだけでは防げない:
空気感染するため、マスクの着用だけでは感染を完全に防ぐことは困難です。
1-2. 大人がかかると重症化しやすい怖い合併症
はしかの症状は、まず咳、鼻水、発熱といった風邪のような症状(カタル期)から始まります。一度熱が下がりかけた後、再び39度以上の高熱とともに全身に発疹が広がるのが特徴です。大人は子供よりも症状が重症化しやすいといわれています。特に注意すべきは、命に関わる合併症です。
・肺炎と脳炎:
はしかの合併症として頻度が高く、この2つが主な死亡原因となっています
・
死亡リスク:
医療が発達した先進国であっても、約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があるとされています。
・亜急性硬化性全脳炎(SSPE):
非常にまれですが、はしかに感染してから数年~10年後に発症する、進行性で致死的な脳の病気です。ワクチンが普及する以前、日本では毎年約50人もの子供がはしかで命を落としていました。このことからも、はしかが決して軽い病気ではないことがお分かりいただけるかと思います。
2. なぜ今、高齢者世代にも「はしか」の注意が必要なのでしょうか?
薬局でご相談を受ける中で、「昔かかったから大丈夫」「自分は年だから関係ない」と思っている方に多くお会いしますが、実はその認識は現在の状況では非常に危険かもしれません。その理由は、国の予防接種制度の変遷と、私たちの生活環境の変化にあります。
2-1. あなたの生まれた年でわかる「免疫世代ギャップ」
あなたのはしかに対するリスクは、生まれた年代によって大きく異なります。ご自身の生年月日がどこに当てはまるか、確認してみてください。
・1977年以前に生まれた方:
ワクチンの定期接種が始まる前の世代です。当時はしかが自然に流行していたため、感染して生涯有効な免疫(自然免疫)を獲得している方が多いと考えられます。しかし、中には運よく感染せず、免疫を持っていない方もいます。
・1978年から2005年生まれの方:
定期接種は行われていましたが、接種は1回のみでした。1回の接種では十分な免疫がつかないか、時間とともに免疫が弱まってしまう可能性があります。
2-2. 免疫力が低下している可能性
たとえ過去に免疫を持っていたとしても、それが今も十分であるとは限りません。特に高齢者世代には、免疫が不十分になっている「見えないリスク」が潜んでいます。実は、かつてはワクチンによる免疫が少し弱まっても、周囲ではしかが時折流行することで、ウイルスに自然に触れる機会がありました。これが「追加免疫(ブースター効果)」となり、知らず知らずのうちに免疫力を強化してくれていたのです。しかし、現在はワクチンのおかげで国内からはしかが排除され、その「天然の安全網」がなくなってしまいました。その結果、何十年も前の単独のワクチン接種や、加齢で弱まった免疫力だけで、海外から持ち込まれるウイルスに立ち向かわなければならない状況になっているのです。
・ワクチンの効果の減弱:
ワクチンを1回だけ接種した場合、その免疫が持続する期間は約10年といわれています。1978年から2005年に生まれた方は、免疫がすでに大きく低下している可能性があります。
・自然免疫の低下:
自然感染で得た免疫も、加齢によって弱まることがあります。また、ステロイドや免疫抑制剤などによる治療も免疫を低下させる一因です。これらは私が薬局で日常的に調剤する薬ですが、こうした治療を受けている方には、はしかのような感染症への注意を特に促す責務があると感じています。
・免疫を強める機会の消失:
前述の通り、国内ではしかが流行しなくなったことで、ウイルスに暴露されて免疫が自然に強化される「ブースター効果」が得られなくなりました。実際に、最近国内で発生している集団感染は、海外からの旅行者が持ち込んだウイルスが原因です。そして、免疫が不十分な大人を中心に感染が広がっています。例えば、2017年に山形で発生した集団感染では、海外渡航者を発端に、50代、60代の方の感染も確認されました。
3. 【薬剤師からのアドバイス】自分と家族をはしかから守るためにできること
はしかから身を守るために、今できることを具体的にご紹介します。
3-1. まずはご自身の免疫状態を確認しましょう
ご自身にはしかに対する十分な免疫があるかを知ることが第一歩です。
・母子手帳を確認する:
もし母子手帳がお手元にあれば、予防接種の記録を確認してみましょう。
・抗体検査を受ける:
接種歴が不明な場合や、免疫が十分あるか不安な場合は、医療機関で「抗体検査」を受けることができます。これは血液検査で免疫力のレベルを数値で確認するものです。もしご自身の状況が分からなければ、薬局では記録を確認できませんので、かかりつけ医にご相談の上、抗体検査を受けるのが最も確実な方法です。抗体検査は基本的に自費診療となります。
3-2. 免疫が不十分な場合は「ワクチン接種」を
抗体検査の結果、免疫が不十分だとわかった場合や、接種歴が不明で不安な場合は、ワクチン接種が最も確実で有効な予防法です。
・MR(麻しん風しん混合)ワクチン:
現在は、はしかと風しんの両方を予防できるMRワクチンを接種するのが一般的です。
・2回の接種で確実な予防を:
ワクチンを1回接種すると約95%の人が免疫を獲得できますが、2回接種することでその割合は99%以上に上がり、最も確実な予防効果が期待できます。これが、現在2回接種が標準である理由です。
・費用と助成金:
大人のワクチン接種は自費診療となりますが、自治体によっては費用の一部を助成する制度を設けている場合があります。お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみることをお勧めします。
4. もしかして?「はしか」が疑われる場合の正しい行動
ご自身やご家族に、発熱や発疹など、はしかを疑う症状が出た場合は、以下の行動を必ず守ってください。受診する前に、必ず医療機関へ電話連絡を! はしかは非常に感染力が強いため、直接医療機関に行くと、待合室などで他の人にうつしてしまう危険があります。 発熱や発疹など、はしかを疑う症状がある場合は、まずかかりつけ医などに電話で相談し、指示に従ってください。公共交通機関の利用もできるだけ避けましょう。
5. まとめ
最後に、高齢者世代の皆さまとそのご家族に、ぜひ覚えておいていただきたい大切なポイントをまとめます。
・はしかは子供だけの病気ではなく、大人がかかると重症化しやすい危険な感染症です。
・生まれた年代によって免疫の状態は異なり、多くの方が気づかないうちに感染リスクを抱えている可能性があります。
・最も確実な予防法はワクチン接種です。日本がこれまで以上に多くの海外からのお客さまを迎える今、はしかウイルスに遭遇する可能性は、もはや遠い国の話ではなく、私たちの日常にある現実的な脅威です。この機会に、ご自身とご家族の免疫の状態を確認し、必要な対策をとることで、あなたと、あなたの周りの大切な人々を感染症から守りましょう。
